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公務外認定を逆転勝利裁決 ~T先生労災事件~

公務外認定を逆転勝利裁決 ~T先生労災事件~

逆転裁決

地方公務員災害補償基金京都府支部審査会(以下「支部審査会」)は、2005年11月10日、地方公務員災害補償基金京都支部(支部長 山田京都府知事、以下「基金支部」)が行った「公務外」認定処分決定を取り消し、T先生先生の公務災害を認める逆転裁決を行いました。

被災と不当な公務外認定

障害児教育のベテランであったT先生は、1994年4月から、神川小学校の大空学級(育成学級)で、多動や自傷など異なる障害を持った児童を担任してきました。その指導には大変な困難を伴いました。

そして、1996年7月25日、花背山の家のキャンプファイヤーでファイヤーダンスを披露した後、片づけをしている最中に脳内出血で倒れました。その後、治療やリハビリを行いましたが、1999年7月28日、再出血を発症して死亡しました。

T先生は、1997年6月24日、公務上災害の認定請求をしました。基金支部は、請求から8年近くも経過した2005年3月24日、T先生の職務は通常の職務であって公務は過重でなかった、職場の同僚が早く帰宅できるように配慮していた、自宅で作業しなければならない状態にはなかった、T先生には高血圧、糖尿病の素因があり、いつ脳内出血が発症してもおかしくない状態であったなどとして、公務外の決定を行いました。

そこで、T先生の死亡後、認定請求事件を承継した妻のNさんは、2005年6月6日、支部審査会に決定の取り消しを求めて審査請求を行いました。

審査会で公務上の災害であったことを認めさせた

審査会では、元同僚の先生、障害児教育の経験豊富な先生、審査請求人である妻のNさんの陳述書や医師の意見書など証拠書類を提出した上、2回の口頭意見陳述を行いました。

その結果審査会は、(1)育成学級におけるT先生の精神的緊張は相当高く、しかもその緊張は長時間に及び疲労が蓄積したこと、(2)担任児童を指導する上での日常的職務には特有の困難性があり、通常の職務の範囲を超えた過重性があったこと、(3)普通学級と比べて3倍以上の日数行われた、連日炎天下でのプール指導による疲労の蓄積があること、(4)みさきの家、山の家と宿泊を伴う野外学習が一月の間に連続し、しかも山の家においては炎天下で指導を行い、緊張を伴うファイヤーダンスまでこなしたことによって疲労を増大させたこと、(5)転勤によって長時間の通勤を余儀なくされ、その結果心身の負担を増加させたこと、などを認定し、公務外の認定処分を取り消しました。

画期的な審査会の判断

現在、公務が過重であったかどうかについては、週当たり20時間程度以上の時間外勤務があったか否かという厚生労働省の「認定基準」を機械的に適用して、これに該当しない過労死・過労疾病を公務外と判断する傾向にあります。

今回の裁決が、このような機械的判断ではなく、T先生の職務について一つ一つきめ細かく事実認定を行い、その過重性を認めたのは画期的なことです。また、T先生が、脳内出血を引き起こす高血圧や糖尿病などの基礎的疾病を有していたことについて、本件被災には職務の関与を否定できないとして公務起因性(公務と災害との相当因果関係)を認定している点も画期的です。

とはいえ基金支部が、認定請求を約8年もの間放置し、しかも証拠や証言等を十分に吟味せず、学校の回答などを一面的に引用して「公務外」決定したことによって、家族の経済的・精神的困難に対する早期救済を阻んだことは、許されるものではありません。また、障害児教育に熱心に取り組んできたT先生が、災害にあってしまった事自体が取り返しのつかないことです。

今後は、児童・生徒の教育を熱心に行う先生の健康・生命が損なわれることのないように、常態化している超過勤務をなくす等、教育現場における労働条件を改善させることが求められます。


11月26日付 毎日新聞(朝刊)

「まきえや」2006年春号