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違憲判決~著しい外貌醜状についての労災障害等級表は憲法14条違反~

[事件報告]

違憲判決~著しい外貌醜状についての労災障害等級表は憲法14条違反~

違憲判決確定

2010年5月27日、京都地方裁判所は、労災による男性の著しい外貌(顔、頸など)の醜状障害について12級と定める労災保険法の「障害等級表」を違憲と判断し、原告男性に対する障害補償給付の支給に関する労基署長の処分を取り消しました。判決は、6月11日、国の控訴断念を受けて確定しました。

労災事故で全身大やけど

原告男性は、1995年、勤務先で、水蒸気爆発により高温(1000℃以上)の溶解炉から溶けた金属が吹き上がるという労災事故に遭い、大火傷を負いました。男性は、約10年間で16回に及ぶ手術を受けましたが、右頬、顎、頚、胸部全域、腹部のほぼ全域、背部、上肢、下肢に瘢痕及び瘢痕拘縮による著しい醜状が残りました。

男性であるがゆえに11級の認定-障害等級表の男女差別

労基署長は、原告の後遺障害について体の他の醜状とあわせて11級と認定し、平均賃金の223日分の一時金と29万円の特別支給金を支給しました。ところが、これが女性であれば、体の他の醜状とあわせて5級の認定を受け、平均賃金184日分の年金と225万円の特別支給金が補償されることになります。

これは、「障害等級表」が醜状障害について次のように規定しているためです。

【第7級の12】女性の外貌に著しい醜状を残すもの
  【第12級の13】男性の外貌に著しい醜状を残すもの
  【第12級の14】女性の外貌に醜状を残すもの
  【第14級の10】男性の外貌に醜状を残すもの

障害等級表の沿革

このような男女差別規定をおいた「障害等級表」は1947年9月に施行されました。しかもその前身は、1936年に改正された工場法の別表に遡ります。時代錯誤も甚だしい規定としかいいようがありません。

判決の意義

国は、外貌醜状が第三者に与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約の程度について、男性に比べて女性の方が大きいという事実的・実質的な差異があり、また、そのような差異があるという社会通念があることが本件差別的取扱いの合理的根拠となると主張しました。

しかしながら裁判所は、被告が主張した労働力調査、化粧品等の売り上げや広告費に関する統計、交通事故の裁判例などについて、差別が合理的であるとする根拠とはならないとしました。また、社会通念についても、その根拠は必ずしも明確ではないとして合理性を認めませんでした。

外貌の醜状障害によって受ける精神的苦痛の大きさは人それぞれであり、男性と女性とで区別できるものではありません。本判決は、外貌醜状についてのみ性別で差別していることの不合理さを素直に認めたものとして評価することができます。

新しい障害等級表の策定と原告の救済

判決が確定したことによって、原告男性には女性と同じ5級の障害年金給付等の処分がなされるものと考え、厚労省との交渉も行いました。

ところが、厚労省は、「障害等級表」の外貌醜状障害の等級を見直し、原告男性にも新しい等級を適用するとして、現在に至るまで何の処分もしていません。

今後原告男性は、障害等級5級に基づいた労災保険(年金等)の支給をさせることを求めて新たな行政事件訴訟(義務づけ訴訟)を提起する準備をしているところです。

なお、労災保険法の「障害等級表」は、自賠責の後遺障害別等級表や国家公務員、地方公務員の災害補償など様々な障害等級を定める際の参考とされており、同様の内容を持つ等級表が数多くあることから、その改正が及ぼす影響は甚大です。「障害等級表」を改正するにあたっては、慎重に議論されなければなりません。

担当弁護士 糸瀬 美保
   同   村井 豊明
   同   大島 麻子

2010年5月18日 朝日新聞

「まきえや」2010年秋号