京都第一の強みと実績
大学教授の過労死事件
- 担当弁護士
- 谷 文彰
イメージからすると意外に思われるかもしれませんが、大学の先生も労働法の関係では通常の「労働者」にあたります。裁量が広いためご自分で働き方をコントロールできることも多いのですが、大学内外での役割など様々な事情からそれができず、長時間労働によって体調を崩される先生もいらっしゃいます。
本件はそのようにして大学の先生が過労死された案件です。
Aさんはとある私立大学の教授でした。大学に勤めるようになったのは20数年前、教授になったのは数年前でした。性格はまじめで仕事熱心、授業や部活、学会への参加の他、プロジェクトの責任者も務めており、日々仕事に励んでいました。休日らしい休日は年に数日しかなかったそうです。
Aさんの様子が変わり始めたのはある夏のこと。ご自宅で会話が乏しくなり、しょっちゅうドアや冷蔵庫を閉め忘れるなど集中力が落ちてきて、それまでそのようなことは一度もなかったのに、テレビを見ながらそのまま寝入ってしまうことも増えてきました。ご家族は心配しましたが、Aさんは「大丈夫」と仕事を続けました。
けれどもAさんの変調はその後も続き、その年の冬、大学の研究室で亡くなられているのが発見されたのです。
ご家族から頂いたご相談は、はじめはお仕事に関することではありませんでした。しかしお話を丁寧に聞いていくと、どうやらAさんが亡くなられた背景に過重労働がありそうだと考え、ご家族に労災として申請することをご提案しました。当初は躊躇われていましたが、制度の趣旨や、もし労災と認められればAさんの死は仕事が原因だったと裏付けられるので気持ちの区切りをつけることにもつながることなどをご説明し、労災申請へと進みました。
ご家族のお話やAさんの手帳、通話履歴などから労働時間を割り出し、併せて、仕事の内容についても、責任や負担の大きなものであったことを裏付けていきました。その結果、Aさんが様々な役職を担いながら月に100時間以上の時間外労働を行い、休日は数えるほどしか取れていないことなどが明らかになったのです。
こうした準備を整えて労基署に申請した結果、無事に労災として認めてもらうことができました。
急に亡くなられ、あるいは悲しいことに自殺をされる背景に、仕事のことがあるというケースは相応にあります。しかし、今回のように、そのことに必ずしも周囲が思い至っておられないケースもあります。本件では、大学の教授という立場と「労災」というものとがつながりにくいということもあったのかもしれません。
大学教授の過労死事件というのは非常に珍しいのですが、今回は早期に弁護士にご相談いただいたことで、亡くなられた背景に仕事があることが浮かび上がり、労災申請へとつなげることができました。